った。主人は奥の下座敷の六畳に寝て、供のふたりは次の間の四畳半の相部屋で寝た。その夜なかに喜三郎は裏二階の客二人を殺して、どこへか姿を隠したのであった。
「さては盗賊か」と、市之助はおどろいた。
七蔵も今更におどろいた。金と酒とに眼がくれて、飛んでもないものを連れて来たと、彼もさすがに顔色を変えた。
前にもいう通り、それが当時の習いとは云いながら、素姓の知れないものを供といつわって関所をぬけさせたということが、表向きの詮議になれば面倒であることは云うまでもない。煎じつめれば、これも一種の関破りである。何事もなければ仔細はないが、こういう事件が出来《しゅったい》した以上、もう隠すにも隠されない破目《はめ》になって、市之助は当然その責《せめ》を負わなければならなかった。もう一つの面倒は、御用の道中でありながら、本陣または脇本陣に泊らないで、殊更に普通の旅籠《はたご》屋にとまったということである。そうして、その旅籠屋でこんな事件を生み出したのであるから、市之助の不都合は重々であると云われても、一言の云い開きも出来ない。
年の若い市之助は、その発頭人《ほっとうにん》たる七蔵を手討ちにして
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