半七捕物帳
山祝いの夜
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)湯治《とうじ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)武家|気質《かたぎ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぐいぐい[#「ぐいぐい」に傍点]と引き摺り込んだ
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一
「その頃の箱根はまるで違いますよ」
半七老人は天保版の道中懐宝図鑑という小形の本をあけて見せた。
「御覧なさい。湯本でも宮の下でもみんな茅葺《かやぶき》屋根に描いてあるでしょう。それを思うと、むかしと今とはすっかり変ったもんですよ。その頃は箱根へ湯治《とうじ》に行くなんていうのは一生に一度ぐらいの仕事で、そりゃあ大変でした。いくら金のある人でも、道中がなかなか億劫《おっくう》ですからね。まあ、普通は初めの朝に品川をたって、その晩は程ヶ谷か戸塚にとまって、次の日が小田原泊りというのですが、女や年寄りの足弱《あしよわ》連れだと小田原まで三日がかり。それから小田原を発《た》って箱根へのぼるというのですから、湯治もどうして楽じゃありませんでした。わたくしが二度目に箱根へ行っ
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