すような一つの事件が出来《しゅったい》した。
ある日のことである。若殿大三郎が中間の又蔵を供に連れて、赤坂の親類をたずねた。その帰りに自分の屋敷の近所まで来ると、そこに三四十俵から五六十俵取りぐらいの小さい御家人たちの組屋敷があって、十二三を頭《かしら》に四、五人の子供が往来に遊んでいた。遊びに夢中になっている一人の子供は、駈け出すはずみに大三郎に突き当って、ふたりは折り重なって路傍に倒れた。もともと悪意でないことは判っていたが、供の又蔵は主人が突き倒されたのと、相手が小身者《しょうしんもの》の子供であるという軽侮とで、その子供の襟髪を引っ掴んでいきなりぽかりぽかりなぐりつけた。これは無論に又蔵の仕損じであった。かれ等はともかくも武士の子である。理非も糺《ただ》さずにみだりに人を打擲《ちょうちゃく》するとは何事だといきまいた。もう一つには、こっちが相手を小身者と侮ると同時に、相手の方では大身に対する一種の妬みと僻《ひが》みがあった。彼等はすぐに組中の子供を呼びあつめて、めいめい木刀や竹刀《しない》を持ち出して、およそ十五六人が鬨《とき》を作って追って来た。その中には、かれらの兄らしい
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