と、半七は説明した。
併しその説明だけでは、二人の腑に落ちなかった。槇原は又きいた。
「なぜ又、若殿をそんなところに隠して置くんだろう。一体、誰がそんなことを考えたんだろう」
「それは奥様のお指図のように聞いています」
「奥様……」と、角右衛門はいよいよ呆れた。
すべてが余りに案外なので、いろいろの経験に富んでいる槇原も煙《けむ》にまかれたらしく、大きい眼を見はったままで木偶《でく》のように黙っていた。半七はつづいて説明した。
「まことに失礼でございますが、お屋敷は朝顔屋敷……朝顔を大層お嫌いなさるように承って居ります。その屋敷のお庭にことしの夏、白い朝顔の花が咲きましたそうで……」
角右衛門は苦《にが》い顔をして又うなずいた。
「つまりその朝顔の花が今度の事件の起りでございます」と、半七は云った。
朝顔の花が咲けば必ず家に凶事があるというので、屋敷の人達も顔を陰らせた。主人はあまりそんなことに頓着しない気質であるので、ただ笑って済ませてしまったが、奥方はひどくそれを気に病んで、なにかの禍いがなければよいと明け暮れに案じているうちに、先月の末、些細なことから奥方の神経をおびやか
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