まだ降りやまないらしく、白い花びらが暖簾をくぐって薄暗い土間へときどき舞い込んで来た。
二
もとより盲《めくら》の云うことで、別に取り留めた証拠もないのであるが、半七はそれを一種の不思議な話として、ただ聞き流してしまうわけには行かなかった。彼はあくまでその不思議の正体を突き止めたかった。その晩は徳寿に別れて、神田の家へまっすぐ帰ったが、あくる朝、浅草の馬道《うまみち》にいる子分の庄太を呼びにやった。
「おい、庄太。廓は田町の重兵衛の縄張りだが、おれが少しちょっかいを出して見たいことがあるんだ。てめえ一つ働いてくれ。江戸|町《ちょう》に辰伊勢という女郎屋があるだろう。あすこの誰袖《たがそで》という女のことを少し洗って貰いてえんだ」
「誰袖は入谷の寮に出ていると云うじゃありませんか」と、庄太は心得顔に云った。
「それを調べてくれと云うんだ。実は少しおれの腑に落ちねえことがあるから……。つまりあの女には情夫《おとこ》でもあるか、なにか人から恨みでも受けているようなことでもあるか。それから如才《じょさい》もあるめえが、その辰伊勢という店の内幕も一と通りは調べあげてくれ」
「わか
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