半七捕物帳
春の雪解
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)河内山《こうちやま》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)江戸|町《ちょう》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)これはあられ[#「あられ」に傍点]でございますね
−−

     一

「あなたはお芝居が好きだから、河内山《こうちやま》の狂言を御存知でしょう。三千歳《みちとせ》の花魁《おいらん》が入谷の寮へ出養生をしていると、そこへ直侍《なおざむらい》が忍んで来る。あの清元の外題《げだい》はなんと云いましたっけね。そう、忍逢春雪解《しのびあうはるのゆきどけ》。わたくしはあの狂言を看《み》るたんびに、いつも思い出すことがあるんですよ」と、半七老人はつづけて話した。「勿論お話の筋道はまるで違いますがね。舞台は同じ入谷《いりや》田圃《たんぼ》で、春の雪のちらちら降る夕方に、松助の丈賀のような按摩《あんま》が頭巾をかぶって出て来る、その場面の趣があの狂言にそっくりなんですよ。まあ、聴いてください。わたくしの方は素話《すばなし》で、浜町の太夫さんの粋な喉を
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