らせて、かれは酒を飲みながらおもむろにその仔細を訊き出そうとした。
「それが何と云って、お話のしようもないんですよ」と、徳寿は顔をしかめてささやいた。
「まあ、旦那。聞いてください。わたくしが奥へ通されて、花魁の肩を揉んでいますと……大抵いつも夜か夕方ですが……花魁のそばに何か来て坐っているような工合で……。いいえ、それが新造《しんぞ》衆や女中達じゃありません。そんな人達ならば何とか口を利くでしょうが、初めから終《しま》いまで一度も口を利いたこともないので、座敷のうちは気味の悪いほどにしん[#「しん」に傍点]としているんです。まあ、早く云えば、幽霊でも出て来て、黙っているんじゃないかと思われるようで……。わたくしは身体がぞっ[#「ぞっ」に傍点]として、どうにもこうにも我慢が出来ないんでございます。それですから、仲働きのお時さんには気の毒ですけれども、この頃は無理に振り放して逃げてくるので……。いえ、もう、一軒のお得意ぐらいはしくじっても仕方がございません」
なんだか理窟があるような、理窟がないような、一種奇怪な物語をこの盲人から聞かされて、半七も黙ってかんがえていた。日が暮れても雪は
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