よ。おまえも御苦労だが、一緒に来てくれ」
「ようがす」
飯を食ってしまって、二人はすぐに金杉へ行った。きょうはのどかな日で、上野の森の上には薄紅い霞が流れていた。
「誰袖の家は金杉だな」と、半七は途中で云った。「どっちを先にしようか。まあ、やっぱりその辻占売りの方から取りかかろう。おまえ、そのおきんという娘の家を知っているのか」
庄太は知らないと云った。どうで根《こん》よく探すのは覚悟の上であるから、二人はあたたかい日を背負いながら金杉の方へぶらぶら歩いて行った。そのうちに何を見付けたのか、半七は急に立ち停まった。
「おい、徳寿さん、どうしたい」
按摩の徳寿は杖にすがってちょっと考えたが、勘のいい彼はこのあいだの蕎麦屋の旦那の声を忘れなかった。彼は頻りにその時の礼を云っていた。
「よいお天気になりまして結構でございます。旦那様、今日はどちらへ……」
「丁度いい所でおまえに逢った。お前もこの近所だそうだが、ここらにおきんという辻占売りの家はねえかしら」
「へえ。おきんはわたくしの近所におりましたが、昨年の暮から何処へか行ってしまいましたよ」
「本人はいなくっても、親か兄妹《きょうだ
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