こんなことを話した。
「こりゃあ別の話ですがね。やっぱり金杉の方から吉原へ辻占《つじうら》を毎晩売りに来る娘があるんです。十六七で、容貌《きりょう》がいいのに声がいいというので、廓でもだいぶ評判になって、素見《ひやかし》なんぞは大騒ぎをしていたんだが、それがどうしてか、去年の暮頃からちっとも姿を見せなくなってしまったので、おせっかいの奴らがいろいろ詮議したがどうもわからない。たぶん情夫《おとこ》でも出来て、駈落ちでもしたんだろうということになってしまったんですが、田町《たまち》の重兵衛はそれに何か目星をつけた事でもあるのか、子分に云い付けてその娘のゆくえを捜させているそうです」
「そうか」と、半七は考えた。「そんなことがあるのか。おらあちっとも知らなかった。土地のことだけに重兵衛は眼が早えな。その辻占売りの娘というのは容貌がいいんだな。年は十六七……。むむ、間違げえのありそうな年頃だ。名はなんというんだ」
「おきん[#「きん」に傍点]というんだそうです。親分も何かお考えがありますか」
「まだ確かなことは云えねえが、少し胸に浮かんだことがある。まあ無駄足だと思って、その金杉へ行ってみよう
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