、死んだ亭主と違って、おまきは情けぶかい方で世間の評判も悪くない。誰袖はお職から二枚目の売れっ妓《こ》で、去年の二の酉《とり》が済んだ頃から入谷の寮に出養生をしているが、女に似合わない大酒であるから、酒毒で胸を傷めたのだろうという噂である。年は二十一で、下谷の金杉の生まれだと女衒《ぜげん》が話した。
「いや、御苦労。まずそれで一と通りは判った」と、半七はうなずいた。「そこで、その女には情夫《おとこ》とか何とかいう者はねえのか。それだけの売れっ妓なら何かあるだろう」
「それがはっきりと見当が付かねえそうで……。もちろん馴染みの客は大勢あるんですが、なかなか手取り者らしいんで、どれがほんとうの情夫なんだか、店の者にもよく判っていないということです。これには私も困りましたよ」
それだけのことでは、半七も考えの付けようがなかった。
「きょうは嬶《かかあ》が留守だから、見舞はいずれ後から届けるが、小児《こども》が病気じゃあ困るだろう。まあ、取りあえずこれだけ持って行け」
半七は庄太に幾らかの金をやって、まあ午飯《ひるめし》でも食っていけと云うと、庄太は喜んで鰻飯の馳走になった。その間に彼は又
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