ないふうで、近所の人達とは仲よく附き合っていた。
 帯取りの池におみよの帯が浮かんでいた其の前の日の朝、この母子は練馬の方の親類に不幸があって、泊りがけでその手伝いに行かなければならないと云って、近所の人達に留守を頼んで出て行った。表の戸には錠をおろして行ったので、誰も内を覗いて見る人もなかったが、それからあしかけ四日目に阿母が一人で帰って来た。両隣りの人に挨拶して、やがて格子をあけてはいったかと思うと、たちまち泣き声をあげて転《ころ》げ出して来た。
「おみよが死んでいます。皆さん、早く来てください」
 近所の人達もおどろいて駈け付けると、娘のおみよは奥の六畳間に仰向けさまに倒れていた。それを聞いて家主も駈け付けた。やがて医師も来た。医師の診断によると、おみよは何者かに絞め殺されたのであった。更に不思議なことは、おみよは阿母と一緒に家を出た時と同じ服装《みなり》をしているにも拘らず、その麻の葉の帯が見えなかった。彼女をまず絞め殺して置いて、それからその死体を適当の位置に据え直して行ったことは、その死にざまのちっとも取り乱していないのを見てもさとられた。
「おみよさんがいつの間に帰って来
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