発見された。その帯の持主は、市ヶ谷|合羽坂《かっぱざか》下の酒屋の裏に住んでいるおみよ[#「みよ」に傍点]という美しい娘で、おみよは何者にか絞め殺されているのであった。そう判ると、又その評判が大きくなった。
おみよは今年十八で、おちか[#「ちか」に傍点]という阿母《おふくろ》と二人で、この裏長屋にしもたや[#「しもたや」に傍点]暮しをしていた。長屋といっても、寄付きをあわせて四間ほどの小綺麗な家で、ことに阿母は近所でも評判の綺麗好きというので、格子などはいつもぴかぴか光っていた。併しこの母子《おやこ》が誰の仕送りで、こうして小綺麗に暮しているのか、それは近所の人達にもよく判らなかった。おみよの兄という人が下町《したまち》のある大店《おおだな》に勤めていて、その兄の方から月々の仕送りを受けているのだと母のおちかは吹聴《ふいちょう》していたが、その兄らしい人が曾《かつ》て出入りをしたこともないので、近所ではそれを信用しなかった。おみよは内証で旦那取りをしているらしいという噂が立った。おみよの容貌《きりょう》が好いだけに、そういう疑いのかかるのも無理はなかったが、母子は別にそれを気にも止め
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