半七捕物帳
帯取りの池
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)記《しる》し

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)市ヶ谷|合羽坂《かっぱざか》下

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)おみよ[#「みよ」に傍点]という美しい娘で
−−

     一

「今ではすっかり埋められてしまって跡方も残っていませんが、ここが昔の帯取りの池というんですよ。江戸の時代にはまだちゃんと残っていました。御覧なさい。これですよ」
 半七老人は万延版の江戸絵図をひろげて見せてくれた。市ヶ谷の月桂寺の西、尾州家の中屋敷の下におびとりの池という、かなり大きそうな池が水色に染められてあった。
「京都の近所にも同じような故蹟があるそうですが、江戸の絵図にもこの通り記《しる》してありますから嘘じゃありません。この池を帯取りというのは、昔からこういう不思議な伝説があるからです。勿論、遠い昔のことでしょうが、この池の上に美しい錦の帯が浮いているのを、通りがかりの旅人などが見付けて、それを取ろうとしてうっかり近寄ると、忽ちその帯に巻き込まれて、池の底
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