たんだろう」
それが第一に判らなかった。おちかの説明によると、その日練馬へゆく途中で、娘のすがたが急に見えなくなった。勿論その前から練馬へゆくのをひどく忌《いや》がっていたから、途中でおふくろを撒《ま》いて逃げ帰ったのであろうと、おちかは推量した。先をいそぐ身は今更引っ返して詮議もならないので、彼女は娘をそのままにして先方へ行った。通夜やら葬式やらに三日ばかりの暇を潰して、四日目のけさ早くに練馬を発って、たった今帰りついて見ると表の錠は外《はず》れていた。案の通り、娘は先に帰っているものと思って、格子をあけてはいると内は昼でも真っ暗であった。口小言を云いながら窓をあけると、まず眼にはいったものは娘の浅ましい亡骸《なきがら》で、おちかは腰のぬけるほど驚いたのであった。
「何がなにやら一向に判りません。わたくしはまるで夢のようでございます」と、おちかは正体もなく泣き崩れていた。
近所の人達も夢のようであった。おみよがいつの間に帰って来て、いつの間に殺されたか、両隣りの者すらも気がつかなかった。それにしてもおみよの帯を誰が解いて行ったかと詮議の末に、それがおとといの朝、かの帯取りの池に浮
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