つだ」と、半七は訊いた。
「毎月|二十日《はつか》だそうですが、今月は師匠が風邪を引いたとかいうんで休みましたよ」
「二十日というとおとといだな」と、半七は少しかんがえた。「あの師匠、どんなものを食っている。魚屋も八百屋も出入りするんだろう。この二、三日の間、どんなものを買った」
それは松吉も一々調べていなかったが、自分の知っているだけのことを話した。そうして、おとといの午《ひる》には近所のうなぎ屋に一人前の泥鰌《どじょう》鍋をあつらえた。きのうの午には魚屋に刺身を作らせたと云った。
「それだけのことが判っていりゃあ申し分はねえじゃあねえか」と、半七は叱るように云った。「野郎は師匠の家に隠れているんだ。あたりめえよ。いくら新宿をそばに控えているからといって、今どきの場末の稽古師匠が毎日|店屋物《てんやもの》を取ったり、刺身を食ったり、そんなに贅沢ができる筈がねえ。可愛い男を忍ばしてあるから、巾着《きんちゃく》の底を掃《はた》いてせいぜいの御馳走をしているんだ。おまけに毎月の書き入れにしている月浚いさえも休んでいるというのが、何よりの証拠だ。師匠の家にはお浚いの床《ゆか》があるだろう」
前へ
次へ
全34ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング