かった。妖怪か、人間か、この二つの議論は容易に一致しなかったが、ここに後者の説について有力の証拠があらわれた。町内の鍛冶屋の弟子に権太郎という悪戯《いたずら》小僧があって、彼がその日の夕方に質屋の隣りの垣根に攀《よ》じ登っているところを見付けた者があった。
「権の野郎に相違ない」
 人騒がせの悪戯者は権太郎に決められてしまった。権太郎は今年十四で、町内でも評判のいたずら小僧に相違なかった。
「こいつ、途方もねえ野郎だ。御近所へ対して申し訳がねえ」
 かれは親方や兄弟子に袋叩きにされて、それから自身番へ引き摺って行ってさんざん謝《あやま》らせられたが、権太郎は素直に白状しなかった。質屋の隣りの庭へ忍び込もうとしたのは、うまそうな柿の実を盗もうがためであって、半鐘をついたり干物をさらったり、そんな悪戯をした覚えはないと強情を張ったが、誰もそれを受け付ける者はなかった。かれが強情を張れば張るほど、みんなにいよいよ憎まれて、自身番では棒でなぐられた。おまけに両手を縄で縛られて、板の間になっている六畳へほうり込まれてしまった。

     二

 これで問題もまず解決したと安心していた町内の人た
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