半七捕物帳
半鐘の怪
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)時雨《しぐ》れ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)人間|業《わざ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)どこからかぬっ[#「ぬっ」に傍点]と現われて
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一
半七老人を久し振りでたずねたのは、十一月はじめの時雨《しぐ》れかかった日であった。老人は四谷の初酉《はつとり》へ行ったと云って、かんざしほどの小さい熊手《くまで》を持って丁度いま帰って来たところであった。
「ひと足ちがいで失礼するところでした。さあ、どうぞ」
老人はその熊手を神棚にうやうやしく飾って、それからいつもの六畳の座敷へわたしを通した。酉の市《まち》の今昔談が一と通り済んで、時節柄だけに火事のはなしが出た。自分の職業に幾らか関係があったせいであろうが、老人は江戸の火事の話をよく知っていた。放火はもちろん重罪であるが、火事場どろぼうも昔は死罪であったなどと云った。そのうちに、老人は笑いながらこんなことを語りだした。
「いや、世の中には案外なことがあるもんでしてね。これ
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