ていました。それですから半鐘になにかの間違いがあれば、さしずめ自身番のものが責任を帯びなければならないのです。今お話し申すのは小さい自身番で、親方が佐兵衛、ほかに手下の定番《じょうばん》が二人詰めているだけでした」
佐兵衛はもう五十ぐらいの独身者《ひとりもの》で、冬になるといつも疝気に悩んでいる男であった。ほかの二人は伝七と長作と云って、これも四十を越した独身者であった。この三人は当の責任者であるだけに、町《ちょう》役人からも厳しく叱られて、毎晩交代で火の見梯子を見張っていることになった。彼等が夜通し厳重に見張っているあいだは別になんの変ったこともなかったが、少し油断して横着をきめると、半鐘はあたかもかれらの懶惰《らんだ》を戒めるように、おのずからじゃんじゃん鳴り出した。町役人立合いで検査したが、半鐘にはなんの異状もなかった。その自然に鳴り出すのは夜に限られていた。
不思議を信ずることの多いこの時代の人達にも、まさか半鐘が自然に鳴り出そうとは思えなかった。殊に人が見張っているあいだは決して鳴らないのに因《よ》っても、それが何者かの悪戯《いたずら》であることは誰にも想像された。おいお
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