ふくろ》はどこへか行ってしまって、兄貴と自分とは孤児《みなしご》同様に取り残されたのであると云った時には、いたずら小僧の声も少し沈んできこえた。半七もなんとなく哀れを誘われた。
「じゃあ兄弟二人ぎりか。兄貴はおめえを可愛がってくれるか」
「むむ。宿下がりの時にゃあ何日《いつ》でもお閻魔《えんま》さまへ一緒に行って、兄貴がいろんなものを食わしてくれる」と、権太郎は誇るように云った。
「そりゃあ好い兄貴だな。おめえは仕合わせだ」と、云いかけて半七は調子をかえた。彼は嚇すように権太郎の顔をじっと視た。
「その兄貴をおれが今、ふん縛ったらどうする」
権太郎は泣き出した。
「おじさん、堪忍しておくれよう」
「悪いことをすりゃあ縛られるのはあたりめえだ」
「おいらは悪いことをしねえでも縛られた。それであんまり口惜《くや》しいから」
「口惜しいからどうした。ええ、隠すな。正直にいえ。おらあ十手を持っているんだぞ。てめえは口惜しまぎれに、兄貴になんか頼んだろう。さあ、白状しろ」
「頼みゃあしねえけれども、兄貴もあんまりひどいって口惜しがって……。なんにもしねえものを無暗にそんな目にあわせる法はねえと
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