云った」
「そりゃあ手前のふだんの行状が悪いからだ。現にてめえは柿を盗もうとしたじゃねえか」と、半七は叱った。
「そのくらいは子供だから仕方がねえ。叱って置いても済むことだ。それも親方に撲《なぐ》られるのは我慢するけれども、自身番の奴らがむやみに棒で撲ったり、縛ったりしやあがった。ひとを縛るということは重いことで、無暗に出来るもんじゃあねえと兄貴が云った」と、権太郎は泣き声をふるわせた。「おいらはもうこうなりゃあ何もかも云っちまうが、兄貴があんまり口惜しいというんで、おいらの加勢で意趣返しをしてくれたんだ。おいらが垣根を登ったなんて密告《つげぐち》をした奴は煙草屋のおちゃっぴいだ。おいらをぶん撲って縛った奴は自身番の耄碌おやじだ。こいつ等をみんなひどい目にあわしてやると、兄貴は終始《しょっちゅう》狙っていたんだ」
「すると、煙草屋のむすめと自身番の佐兵衛と番太の嚊《かかあ》と、この三人にいたずらした奴は手前の兄貴だな」
「おじさん、堪忍しておくれよう」
 権太郎は声をあげて又泣き出した。
「兄貴が悪いんじゃあねえ。兄貴はおいらの加勢をしてくれたんだ。兄貴を縛るならおいらを縛ってくんねえ
前へ 次へ
全35ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング