毎日のように町《ちょう》役人の寄合いがあるので、彼は出来るだけ我慢して起きていた。それがどうしても堪えられなくなって、昼から温石《おんじゃく》などで凌《しの》いでいたが、日が暮れると夜の寒さが腹に泌み透って来た。かれは痙攣《さしこみ》の来る下腹をかかえて炉のそばに唸っていた。
「医者様でも呼んで来ようか」
手下の伝七と長作とが見兼ねて云った。
「まあ、もう少し我慢しようよ」
自身番のおやじや番太郎には金作りが多かった。医者の薬礼を恐れる彼は、なるべく買い薬で間にあわせて置きたかったのであるが、夜のふけるに連れて疼痛《いたみ》はいよいよ強くなって、彼はもう慾にも得《とく》にも我慢が出来なくなった。それでも医者を呼ぶのを嫌って、こっちから医者の家へ行こうと云った。
「それじゃあ私が送って行こう」
伝七がついて行くことになった。強い痙攣で、満足には歩けそうもない佐兵衛を介抱しながら、ともかくも表へ出ると、町には夜の霜が一面に降りていた。伝七は病人の手をひいて、隣り町《ちょう》の医者の門をくぐった。医者は薬をくれて、あたたかにして寝ていろと注意した。礼を云って医者の家を出たのは、もう四ツ
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