は経師職の息子とも一緒に来たことがあったと彼女は語った。これらの話を寄せあつめて考えると、悲しい終りを告げた若い師匠と、その墓へ泣きに来る若い経師職との間には、なにか糸が繋がっているらしく思われた。
「どうもお邪魔をしました」
 半七は銭《ぜに》を置いて寺を出た。

     三

 寺を出て上野の方へ引っ返すと、半七は一人の背の高い男に出逢った。それは松吉という手先で、綽名《あだな》をひょろ松と呼ばれる男であった。
「おい、松。いい所で見つけた。実はこれからおめえの家《うち》へ寄ろうかと思っていたんだ」
「なんです、なにか御用ですか」
「お前まだ知らねえのか、お化け師匠の死んだのを……」
「知りません」と、松吉はびっくりしたような顔をしていた。「へえ、あの師匠が死にましたかい」
「ぼんやりするなよ。眼と鼻との間に巣を食っていながら」と、半七は叱るように云った。「もう少し身にしみて御用を勤めねえじゃいけねえぜ」
 半七からお化け師匠の死を聞かされて、松吉は眼を丸くしていた。
「へえ、そうですかい。悪いことは出来ねえもんだね。お化け師匠とうとう憑殺《とりころ》されたんですよ」
「まあ、ど
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