うでもいいから俺の云うことをきいてくれ。お前はこれから手をまわして、この近所で池鯉鮒《ちりゅう》様の御符《おふだ》売りの泊っているところを探してくれ。馬喰町《ばくろちょう》じゃああるめえ。万年町辺だろうと思うが、まあ急いで見つけて来てくれ。別にむずかしいことじゃああるめえ」
「ええ、どうにかこじつけて見ましょう」
「しっかり頼むぜ。如才はあるめえが、御符売りが幾人いて、それがどんな奴だか、よく洗って来なけりゃあいけねえぜ」
「ようがす、受け合いました」
ひょろ高い男のうしろ姿が山下の方へ遠くなるのを見送って、半七は神田の家に帰った。その日は一日暑かった。日が暮れると、源次がこっそりたずねて来て、お化け師匠の検視はけさ済んだが、人が殺したか蛇が殺したかは確かに決まらないらしかったと話した。ふだんから評判のよくない師匠だけに、所詮は蛇に祟《たた》られたということに決められてしまって、あとの面倒な詮議はないらしいと云った。半七はただ笑って聴いていた。
「師匠の送葬《とむれえ》はいつだ」
「あしたの明け六ツ半(午前七時)だそうです。別にこれという親類もないようですから、家主や近所の者が寄りあ
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