半七捕物帳
お化け師匠
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)家《うち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)四万六千|日《にち》で

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)眼はし[#「眼はし」に傍点]の利く方であった
−−

     一

 二月以来、わたしは自分の仕事が忙がしいので、半七老人の家《うち》へ小半年も無沙汰をしてしまった。なんだか気になるので、五月の末に無沙汰の詫びながら手紙を出すと、すぐその返事が来て、来月は氷川《ひかわ》様のお祭りで強飯《こわめし》でも炊くから遊びに来てくれとのことであった。わたしも急に老人に逢いたくなって、そのお祭りの日に赤坂に出て行くと、途中から霧のような雨が降って来た。
「あいにく少し降って来ました」
「梅雨《つゆ》前ですからね」と、半七老人は欝陶《うっとう》しそうに空を見あげた。「今年は本祭りだというのに、困ったもんです。だがまあ、大したことはありますまいよ」
 約束の通りに強飯やお煮染《にし》めの御馳走が出た。酒も出た。わたしは遠慮無しに飲んで食って、踊りの家台《や
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