、からだを大事にするが好いぜ。それから大和屋の旦那、お店の方へちょいと御案内を願えますまいか」
「はい、はい」
 十右衛門は先に立って店へ出て行った。半七はよろけながら付いて行った。さっきの酔いがだんだん発したと見えて、彼の頬はいよいよ熱《ほて》って来た。
「旦那。店の方はこれでみんなお揃いなんですか」と半七は帳場から店の先をずらりと見渡した。四十以上の大番頭が帳場に坐って、その傍に二人の若い番頭が十露盤《そろばん》をはじいていた。ほかにもかの和吉ともう一人の中年の男が見えた。四、五人の小僧が店の先で鉄釘《かなくぎ》の荷を解いていた。
「はい。丁度みんな揃っているようでございます」と、十右衛門は帳場の火鉢のまえに坐った。
 半七は店のまん中にどっかりと胡坐《あぐら》をかいて、更に番頭や小僧の顔をじろじろ見まわした。
「ねえ、大和屋の旦那。具足町で名高けえものは、清正公《せいしょうこう》様と和泉屋だという位に、江戸中に知れ渡っている御大家《ごたいけ》だが、失礼ながら随分不取締りだと見えますね。ねえ、そうでしょう。主《しゅう》殺しをするような太てえ奴らに、飯を食わして給金をやって、こうして
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