大切に飼って置くんだからね」
店の者はみんな顔をみあわせた。十右衛門も少し慌てた。
「もし、親分。まあ、お静かに……。この通り往来に近うございますから」
「誰に聞えたって構うもんか。どうせ引廻しの出る家《うち》だ」と、半七はせせら笑った。「やい、こいつら。よく聞け。てめえたちは揃いも揃って不埒な奴だ。主殺しを朋輩に持っていながら、知らん顔をして奉公しているという法があると思うか。ええ、嘘をつけ。このなかに主殺しの磔刑《はりつけ》野郎がいるということは、俺がちゃんと知っているんだ。多寡《たか》が守っ子見たような小女一人のいきさつ[#「いきさつ」に傍点]から、大事の主人を殺すような、そんな心得ちげえの大それた野郎をこれまで飼って置いたのがそもそもの間ちげえで、ここの主人もよっぽどの明きめくらだ。おれが御歳暮に寒鴉《かんがらす》の五、六羽も絞めて来てやるから、黒焼きにして持薬にのめとそう云ってやれ。もし、大和屋の旦那。おめえさんの眼玉もちっと陰《くも》っているようだ。物置へ行って、灰汁《あく》で二、三度洗って来ちゃあどうだね」
何をいうにも相手が悪い、しかも酒には酔っている。手の着けよう
前へ
次へ
全35ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング