半七捕物帳
勘平の死
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)門松《かどまつ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)安政|午《うま》年の十二月
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)のんびり[#「のんびり」に傍点]した
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一
歴史小説の老大家T先生を赤坂のお宅に訪問して、江戸のむかしのお話をいろいろ伺ったので、わたしは又かの半七老人にも逢いたくなった。T先生のお宅を出たのは午後三時頃で、赤坂の大通りでは仕事師が家々のまえに門松《かどまつ》を立てていた。砂糖屋の店さきには七、八人の男や女が、狭そうに押し合っていた。年末大売出しの紙ビラや立看板や、紅い提灯やむらさきの旗や、濁《にご》った楽隊の音や、甲《かん》走った蓄音機のひびきや、それらの色彩と音楽とが一つに溶け合って、師走《しわす》の都の巷《ちまた》にあわただしい気分を作っていた。
「もう数《かぞ》え日《び》だ」
こう思うと、わたしのような閑人《ひまじん》が方々のお邪魔をして歩いているのは、あまり心ない仕業《しわざ》であることを考えなければな
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