えび》のように真っ紅になった。
「どうです。渋っ紙は好い加減に染まりましたか」と、半七は熱い頬を撫でた。
「はい、好い色におなりでございます」と、十右衛門は仕方なしに笑っていた。
そうして、こんなに酔っている男を和泉屋へ案内するのは、なんだか心許《こころもと》ないようにも思ったらしいが、今更ことわるわけにも行かないので、かれは勘定を払って半七を表へ連れ出した。半七の足もとは少し乱れて、向うから鮭をさげて来る小僧に危く突き当りそうになった。
「親分。大丈夫ですか」
十右衛門に手を取られて半七はよろけながら歩いた。飛んだ人に飛んだことを相談したと、十右衛門はいよいよ後悔しているらしく見えた。
「旦那。どうぞ裏口からこっそり入れてください」と、半七は云った。
しかし、まさかに裏口へも廻されまいと十右衛門は少し躊躇していると、半七は店の横手の路地へはいって、ずんずん裏口の方へまわって行った。その足取りはあまり酔っているらしくも見えなかった。十右衛門は追うように其の後について行った。
「すぐにお冬どんに逢わしてください」
裏口からはいった半七は、広い台所を通りぬけて女中部屋を覗いたが、そ
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