に虎七の住み家《か》はその露地の奥の奥で、四畳半|一間《ひとま》に型ばかりの台所が付いているだけである。そこへ町方《まちかた》の手先がむかったのは明くる日の午《ひる》ごろであった。
庄作親子の届け出でを聞いて、自身番でもその夜はそのままに捨てて置いたが、仮りにもそれが千鳥の女房殺しに関係があるらしいというのでは、もちろん聞き流しには出来ないので、明くる朝になって町《ちょう》役人にも申立て、さらに町方にも通じたので、ともかくも虎七を詮議しろということになって、町方の手先は直ぐに召捕りに行きむかうと、虎七の家の雨戸は閉め切ってあった。こんな奴等は盗人《ぬすっと》も同様、あさ寝も昼寝もめずらしくないので、手先は雨戸をこじ明けて踏み込むと、虎七は煎餅蒲団の上に大きい口をあいて蹈《ふ》んぞり返っていた。寝ているのではない、頸を絞められているのであった。
川端の闇で虎七と争っていた女が清元延津弥であるらしいことは、読者もおそらく想像したであろう。捕り方もその判断の付かない筈はなかった。延津弥は一旦ここへ引戻されて、虎七の酔って眠った隙をみて、かれを絞め殺して逃げたに相違ない。四畳半の隅には徳利
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