ものでは决してないが、ただ急激な変動を見物に与えたくはない、苦い薬を飲ましたため、患者が懲《こ》りてしまって、その医師が流行《はや》らなくなるのは、本意ではない、新しい進んだ今の見物にはチト面倒だというものをオムラートで包んで見せるのが私の用意である、一つの方法として歌舞伎座の田村氏などもよくいうのです「一幕位はズバヌケて新しいものを出して御覧なさい、見物は相応に見て、苦情もいわないでしょう」と。
今の俳優の中で延《のば》そうという者も見当らないが、先《ま》ず宗之助《そうのすけ》であろう、あの人は女役《おやま》が適当であると自信して、かなりいい立役が附いても喜ばぬ風《ふう》であるが、とにかく年は若し、最も有望なんであろう。菊五郎吉右衛門も、今と大差なしで固《かたま》ってしまうだろうし、歌舞伎座幹部連もいずれも年配で、先が見えている、大器晩成と顧客《ひいき》がいう栄三郎もチト怪しいものである。もっとも今の羽左衛門が家橘《かきつ》といった頃は拙《へた》さ加※[#「冫+咸」、305−5]はお話になったものでなく、私は到底今のようになろうとは思わなかった、私が明治三十五年頃、歌舞伎座へ『柿木
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