金助《かきのききんすけ》』という新作物を書いた、筋は名古屋の金のしゃちほこ[#「しゃちほこ」に傍点]を凧《たこ》に乗って盗むというのだが、その金助の役を八百蔵に書き下したところ、芝居では家橘にやらそうというので、私は「あんな下手な人は御免だ」と断った事がある(とうとう家橘が演じたが)。それほどであったので、到底今の羽左衛門とは思いも依らなかった。団十郎も三十歳までは大根の頭梁であったというから栄三郎またどうなるか分らぬが先ず先ず怪しいものである。さて高麗蔵《こまぞう》とてどうだか? 団子《だんご》は気はあるようだが柄で難かしく、挙げ来れば左団次であろう、あの人が歌舞伎式で成功するとは决していわぬ、新しいもので行ったらばと思うのである。左団次に扈従《こじゅう》している左升は旧劇物では駄目だが、新しいものだと仲々よくなる、新作物にちょっと巧い俳優であるが、然しこの位の俳優ならばいくらもあるのである。さて俳優にもまた人がない。



底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
   2007(平成19)年10月16日第1刷発行
   2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「
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