とお由はわたくしの稽古|朋輩《ほうばい》で、おなじ裁縫のお師匠さんへ通っているのでございます。従妹《いとこ》同士でもあり、稽古朋輩ですから、ふだんから仲のいいのは勿論で、叔父さんがそんな風ではわたくしたちばかりでなく、さあ[#「さあ」に傍点]ちゃんやおよっ[#「よっ」に傍点]ちゃんもさぞ困るだろうなどと考えると、わたくしは本当に悲しくなりました。こういう時の心持は悲しいとか情けないとかいうよりほかに申上げようはございません。どうぞお察しを願います。
あくる日、お稽古に参りますと、お定とお由の姉妹《きょうだい》はいつもの通りに来ていました。気をつけて見ますと、わたくしの気のせいか、姉妹ともになんだか暗いような、涙ぐんだような顔をしています。ゆうべのことについて、もっと詳しく訊いてみたいような気もしましたけれど、ほかにも稽古朋輩が五、六人坐っているのですから迂濶《うかつ》なことも言えません。お稽古が済んで、途中まで一緒に帰って来ると、お定が歩きながらわたくしに訊きました。
「家《うち》のおっかさんがゆうべお前さんのとこへ行ったでしょう。」
「ええ、来てよ。」
「どんな話をして……。」
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