うそうで、叔母さんは大変に心配しているんだよ。」
「どこへ遊びに行くんでしょう。」と、わたくしは訊きました。
「どうも新宿の方へ行くらしいんだよ。」
母は思い出したように、昼間の女のことを詳しく訊きかえしました。その女は新宿の芸妓かなにかで、叔父はそれに引っかかっているのだろうと、母は推量しているらしいのです。わたくしも大方そんなことだろうと思いました。商売を打っちゃって置いて、毎日遊び歩いてお金を遣って、叔父さんの家はどうなるだろう。そんなことを考えると、わたくしはいよいよ心細いような、悲しいような心持になりました。
「ふうちゃんもまだ若いからね。」と、母はひとり言のようにいって、また溜息をつきました。
ふう[#「ふう」に傍点]ちゃんというのはわたくしの兄の房太郎のことで、前に申す通り、まだ十九で、奉公中の身の上でございます。何につけても頼りにするのは会津屋の叔父ひとり、その叔父がそういう始末ではまったく心細くなってしまいます。母が溜息をつくのも無理はありません。わたくしも涙ぐまれて来ました。
「それにね。」と、母はまたささやきました。「叔父さんはこのごろ妙に気があらくなって、家
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