いますと、かのよい辰が会津屋へ押掛けて行ったことが岡っ引の耳にはいりまして、よい辰を詮議の結果、叔父が善兵衛の蜘蛛を譲ってもらったということが判りまして、それから善兵衛を呼出して調べると、最初はシラを切っていましたが、家探しをすると二階の押入れにはお由が監禁されている。それやこれやでさすがに包みおおせず、とうとう白状に及んだということでございます。姉のお定は三五郎という山女衒《やまぜげん》――やはり判人《はんにん》で、主に地方の貸座敷へ娼妓《しょうぎ》を売込む周旋をするのだとか申します。――の手へわたして、近いうちに八王子の方へやるつもりであったそうで、もう少しのところであぶないことでございました。
 これで、このお話もまずお仕舞いでございます。――まだ判らないことがあると仰しゃるのでございますか。はあ、成る程。お稽古の帰り道で、お定がわたくしに「およっちゃんと仲よくして頂戴」と言ったこと。――あれは後にお定に聞きますと、別になんでもないことでした。その日、裁縫のお師匠さんのところで、わたくしが間違ってお由の鋏《はさみ》を使ったというので、ひと言ふた言いい合いました。もとより根も葉もな
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