さんに棲んでいると教えたので、叔父は小さい蝋燭のひかりを頼りに、そこらを照らして見ると、善兵衛は足もとに転がっていた大きい切石を拾って……。後に善兵衛の申立てによると、初めから叔父を殺そうとして連れ出したのではなく、ふと足もとに大きい石のあるのを見て、俄かにそんな料簡《りょうけん》を起したのだということでしたが、実際はどうでございましょうか。いずれにしても、ここの蜘蛛を捕って行ったところで、きっと勝つかどうだか判らない。それをまた、かれこれとうるさく言って来て、娘をかえせの何のと騒ぎ立てられてはいよいよ面倒であるから、いっそ人知れずに殺してしまえという気になったに相違ありません。そのときに蝋燭は落ちて消えてしまったので、叔父の印籠の落ちたことを善兵衛は知らなかったのでございます。この印籠がなかったらば、役人たちも蜘蛛のことには気が付かず、詮議もすこしく暇《ひま》どれたことと察しられますが、蜘蛛に係り合いがあると目をつけて、四谷新宿辺でその勝負をするものを探り出したので、案外に早く埒《らち》が明いたわけでございます。
 それにしても、どうして善兵衛の仕業《しわざ》ということが判ったかとい
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