はなかなか承知しませんで、これはみんな大事の虫だからめったに譲ることは出来ないと断りました。叔父はもう逆上《のぼ》せていますから、譲ってくれればどんな礼でもするという。それでも善兵衛は容易に承知しないでさんざん焦《じ》らした挙げ句に、おまえの娘をくれるならば譲ってやると言い出したのでございます。ずいぶん乱暴な話ですけれども、半気違いの叔父は、むむ、よろしいと承知してしまいました。
しかしほかの事と違いますから、叔母に打明けるわけには参りません。いえば、不承知は判り切っています。不承知どころか、どんな騒ぎになるか判りません。そこで、叔父はそっと自分の家の近所へ忍んで来て、姉娘が外へ出るのを待っていますと、お定が糸を買いに出て来ましたので、ちょいとそこまで一緒に来てくれといって連れて行きました。お定も自分の親のいうことですから、なんの気もつかずに一緒に付いて行くと、叔父はむすめを大木戸の相模屋へ連れ込んで、いい加減にだまして二階へ押上げてしまいました。こうなると、お定ももう十七、八ですから、なんだかおかしく思って、早く家へ帰りたいと言い出しますと、叔父はここで一切《いっさい》の事情を打明
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