けて、おれが勝負に勝ちさえすればきっとおまえを連れ戻しに来るから、しばらくここに辛抱しろと言い聞かせましたが、お定は泣いて承知しません。承知しないのが当り前でございます。叔父はたいそう怒りまして、親のためには身を売る者さえある。これほど頼んでも肯《き》かないならば唯は置かないといって、勿論、おどし半分ではありましょうが、ふところから小刀のようなものを出して娘の目のまえに突きつけたので、お定もふるえ上がりました。そこへ善兵衛も上がって来まして、泣き声が近所へきこえては悪いというので、お定に猿轡《さるぐつわ》をはませて、押入れのなかへ監禁してしまったのでございます。この善兵衛というのは叔父と同じ年ごろで、表向きは堅気の商人《あきんど》のように見せかけながら、半分はごろつきのような男であったそうですから、女をかどわかしたりすることには馴れていたのかも知れません。
それでまず一匹の大きい蜘蛛を譲ってもらいまして、叔父はその晩すぐに勝負に出かけますと、一度は勝ちましたが二度目に負けました。それはお春が雷に撃たれた晩で、よい辰の家では娘の帰りが遅いので心配をはじめました。旦那の近江屋も案じていま
前へ
次へ
全48ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング