は勝負の上の借りですから、表立ってどうこうと言うわけにはいかない性質のものですが、その方《かた》を付けて置かないとお春の家へ出這入《ではい》りが仕にくいことになります。ことに七月の盆前にさしかかっているので、お春の方でも催促します。そこで、叔父は一時のがれの気やすめに、自分は石切横町に一軒の家作《かさく》を持っているから、もし盆前までに返金が出来なかったらば、それをおまえの方へ引渡すといって、念のためにお春を連れ出したのでございます。苦しまぎれとはいいながら、叔父も随分ひどい人で、お春をわたくしの家の前へ連れて来て、これがおれの家作だと教えたのだそうです。
お春はそれで一旦|得心《とくしん》したのですが、家へ帰って親父に話すと、親父はよい辰ですから迂濶にその手に乗りません。よその家を人にみせて、これがおれの家作だなぞというのは、昔からよくある手だから油断は出来ない。念のためにもう一度その家をたずねて行って、たしかに会津屋の家作であるかないかを確かめて来いと言いましたので、お春も成る程と思って、あくる日の午《ひる》すぎにまた出直して来ると、あいにくにあの夕立で……。その後のことは死人に
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