たそうです。親父のよい辰も半身不随のくせに、やはり勝負をしていたのでございます。いつの代もおなじことで、こんなことに耽《ふけ》っていれば結局碌なことにはなりません。
わたくしにはよく判りませんが、蜘蛛というものは非常に残忍な動物で、同類相噛むと申します。その性質を利用して勝負を争うのですから、碁や将棋や花合せとは違いまして、自分の上手下手というよりも、虫の強い弱いということが大切でございます。それですから、咬み合いに用いる蜘蛛はなかなかその値が高かったと申します。そのなかでも袋蜘蛛がよいという事になっていたそうでございます。御承知の通り、袋蜘蛛は地のなかに棲んでいまして、袋のなかにたくさんの子を入れているのでございます。
勝負事ですから、勝ったり負けたりするのでございましょうが、叔父は近ごろ運が悪くて、しきりに負けが続きました。負ければ負けるほど熱くなるのが勝負事のならいで、叔父はいよいよ夢中になって家の金をつかみ出しているうちに、手元がだんだん苦しくなって来ました。伯母には内密で諸方《しょほう》に借金が出来ました。まだその上に、お春親子にも三、四十両の借金が出来ました。お春の借り
前へ
次へ
全48ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング