来た役人たちはそこらの草の中に小さい蝋燭《ろうそく》の燃えさしと、ほかに印籠《いんろう》のようなものが落ちているのを見つけ出しました。それが手がかりになって四、五日の後に、叔父を殺した罪人は召捕られました。
わたくしはその品を見ませんので、くわしいことは申上げられませんが、その印籠のようなものというのは本当の印籠よりも少し細い形で、どちらかといえば筒《つつ》のような物であったそうです。蒔絵《まきえ》などがしてあって、なかなか贅沢な拵《こしら》えであったと申します。素人にはそれが何であるかちょっと判りかねるのでございますが、役人たちはさすがに職業柄で、それは蜘蛛を入れるものであるということを知っていました。皆さんの中には御存じの方もございましょうが、江戸の文化文政ごろには蜘蛛を咬み合わせることがはやったそうでございます。シナでも或る地方ではきりぎりすを咬みあわせることが大層はやるといいますが、日本の蜘蛛も大方そんなことから来たのでしょう。誰がはじめたのか知りませんが、一時はだいぶはやりました。それが天保度《てんぽうど》の改革以来すっかりやんでしまいまして、幕末になってぼつぼつとはやり出
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