」と、母も涙をこぼしていました。
七月三日の午《ひる》過ぎになって、叔父の姿が見いだされました。叔父は千駄ヶ谷につづいている草原のなかに倒れて死んでいたのでございます。大きい切石で脳天をぶち割られて。……それを考えると今でもぞっとします。その知らせが来たので、会津屋の店の者や、出入りの仕事師や、町内の月番の者や、十人ほど連れ立って、叔父の死骸を引取りに行きました。それを聞いたときには、母は声を立てて泣き出しました。わたくしも泣きました。
五
いえ、どうもお話が長くなりまして、定《さだ》めし御退屈でございましょう。これから先のことは、自分が実地を見たわけではなく、あとで聞かされたのでございますから、なるべく掻いつまんで申上げることに致します。
叔父の頭を石でぶち割ったというのは、その疵口ばかりでなく、血に染みた大きい切石がその近所に捨ててあったのを見て、すぐにそれと覚られたのだそうでございます。叔父がなんでそんな所にうろ付いていたのか、またどうして殺されたのか、誰にも見当が付かなかったのでございますが、やはりその時代でも探偵は相当に行届いていたものと見えまして、検視に
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