んがその娘のお春というのを引っ張り出して、それがためにお春が石切横町で雷に撃たれて死んだというので、ここの家《うち》へ文句を言いに来たんだが、わたしはなんにも知らない事だし、相手がかみなり様じゃあどうにもならないじゃあないか。」
「そうですねえ。」
「たとい叔父さんが引っ張り出したにしても、雷に撃たれたのは災難じゃあないか。自分たちの身状《みじょう》が悪いから、罰《ばち》があたったのさ。」と、叔母は罵るように言いました。「叔父さんが娘を引っ張り出したのか、あいつらが叔父さんを引っ張り出したのか判るものかね。」
その権幕があまり激しいので、わたくしは怖くなりました。なるほど母のいう通り、叔母は気違いにでもなるのでないかと思うと、なんだか気味が悪くなって、逃げるように早々帰って来ました。
それから三日ばかり過ぎました。そのあいだに母は毎日二、三度ずつ会津屋を訪ねていましたが、叔父もお定姉妹もやはり姿をみせないのでございます。今日《こんにち》で申せばヒステリーとでもいうのでしょう、叔母は半気違いのようになって家《うち》じゅうの者に当り散らしていました。
「ああしていたら会津屋はつぶれる。
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