下屋敷へも遍《あまね》く聞え渡ったので、血気の若侍共は我れその変化の正体を見届けて、渡辺綱、阪田公時にも優る武名を轟かさんと、いずれも腕を扼《さす》って上屋敷へ詰かけ、代る代る宿直《とのい》を為《し》たが、何分にも肝腎の妖怪は形を現わさず、夜毎夜毎に石を投げるばかり。で、一同も少しく魂負けがして、念の為に石の最も多く降るという座敷にズラリと居列《いなら》んで、屹《きっ》と頭《かしら》をあげて天井を睨み詰めていると、石は一向に落ちて来ぬ。かくて半※[#「日+向」、第3水準1−85−25]《はんとき》も過ぎると、何《いず》れも漸く飽《あき》が来て、思わず頭を低《た》れると、あたかもその途端に石がバラリと落ちるという工合で、どうしても上に物あって下の挙動を窺っているとよりは見えぬ。それには何《いず》れも持て余してどうしたらよかろうと協議の末、井神何某と云う侍が、コリャ狐狸の所為《しわざ》に相違ないから、恐嚇《おどし》に空鉄砲を撃って見るがいいと、取あえず鉄砲を持ってその場へ引返して来る、この時早し彼時遅し、忽《たちま》ちに一個《ひとつ》の切石が風を剪って飛んで来て、今や鉄砲を空に向けんとする
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