池袋の怪
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)翌《あく》る年の事で

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)毎夕|点燈頃《ひともしごろ》になると

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)半※[#「日+向」、第3水準1−85−25]《はんとき》
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 安政の大地震の翌《あく》る年の事で、麻布の某藩邸に一種の不思議が起った。即ち麻布六本木に西国某藩の上屋敷があって、ここに先殿《せんとの》のお部屋様が隠居所として住って居られたが、幾年来別に変った事もなく、怪しい事もなく、邸内無事に暮していた。然《しか》るにその年の夏のはじめ、一匹の蛙《かわず》が椽《えん》から座敷へ這上って、右お部屋様の寝間の蚊帳《かちょう》の上にヒラリと飛び上ったので、取あえず侍女《こしもと》共を呼んでその蛙を取捨てさせた所が、不思議にもその翌晩も飛び上る、その翌々晩も這上る。草深い麻布の奥、元より庭も広く、池も深く、木立も草叢も繁茂《おいしげ》っているから、夏季になれば
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