蛇も這出そう、蛙も飛出そう、左《さ》のみ怪しむにも及ばぬ事と、最初は誰も気にも留めずに打過ぎたが、何分にもその蛙が夜な夜な現われると云うに至っては、少しく怪しまざるを得ない。しかも日を経るに随《したが》って、蛙は一匹に止らず、二匹三匹と数増して、果《はて》は夜も昼も無数の蛙が椽に飛び上り、座敷に這込むという始末に、一同も是《こ》れ尋常事《ただごと》でないと眉を顰め、先ずその蛙の巣窟を攘《はら》うに如ずと云うので、お出入りの植木職を呼あげて、庭の植込を洗《ふ》かせ、草を苅らせ、池を浚《さら》わせた。で、それが為かあらぬか、その以来、例の蛙は一匹も姿を見せぬようになったので、先ず可《よ》しと何《いず》れも安心したが、何ぞ測らん右の蛙がそもそも不思議の発端で、それからこの邸内に種々の怪異《あやしみ》を見る事となった。ある日の夕ぐれ、突然《だしぬけ》にドドンと凄じい音がして、俄に家がグラグラと揺れ出したので、去年の大地震に魘《おび》えている人々は、ソレ地震だと云う大騒ぎ、ところが又忽ちに鎮って何の音もない。で、それからは毎夕|点燈頃《ひともしごろ》になると、何処《いずく》よりとも知らず大浪の寄
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