せるようなゴウゴウという響《ひびき》と共に、さしもに広き邸がグラグラと動く。詰合《つめあい》の武士も怪しんで種々《いろいろ》に詮議《せんぎ》穿索《せんさく》して見たが、更にその仔細が分らず、気の弱い女共は肝《きも》を冷して日を送っている中に、右の家鳴震動は十日ばかりで歇《や》んだかと思うと、今度は石が降る。この「石が降る」という事は往々聞く所だが、必らずしも雨霰の如くに小歇《おや》なくバラバラ降るのではなく何処《いずく》よりとも知らず時々にバラ潟oラリと三個《みつ》四個《よつ》飛び落ちて霎時《しばらく》歇《や》み、また少しく時を経て思い出したようにバラリバラリと落ちる。けれども、不思議な事には決して人には中《あた》らぬもので、人もなく物も無く、ツマリ当り障りのない場所を択んで落ちるのが習慣《ならわし》だという。で、右の石は庭内にも落ちるが、座敷内にも落ちる、何が扨《さて》、その当時の事であるから、一同ただ驚き怪しんで只管《いたずら》に妖怪変化の所為《しわざ》と恐れ、お部屋様も遂にこの邸《やしき》に居堪《いたたま》れず、浅草並木辺の実家へ一先《ひとまず》お引移りという始末。この事、中屋敷
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