ちに、もう改札口が明いたとみえまして、二等三等の人達がどや[#「どや」に傍点]/\と押合つて出て行くやうですから、わたくしも引返《ひっかえ》して改札口の方へ行きますと、大勢の人たちが繋《つな》がつて押出されて行きます。わたくしもその人達の中にまじつて改札口へ近づいた時でございます。どこからとも無しにこんな声がきこえました。
「継子さんは死にました。」
わたくしは悸然《ぎょっ》として振返りましたが、そこらに見識つたやうな顔は見出《みいだ》されませんでした。なにかの聞き違ひかと思つてゐますと、もう一度おなじやうな声がきこえました。しかもわたくしの耳のそばで囁《ささや》くやうに聞えました。
「継子さんは死にましたよ。」
わたくしは又ぎよつとして振返ると、わたくしの左の方に列《なら》んでゐる十五六の娘――その顔容《かおだち》は今でもよく覚えてゐます。色の白い、細面《ほそおもて》の、左の眼《め》に白い曇りのあるやうな、しかし大体に眼鼻立《めはなだち》の整つた、どちらかといへば美しい方の容貌《ようぼう》の持主で、紡績飛白《ぼうせきがすり》のやうな綿衣《わたいれ》を着て紅いメレンスの帯を締めてゐ
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