ました。――それが何だかわたくしの顔をぢつ[#「ぢつ」に傍点]と見てゐるらしいのです。その娘がわたくしに声をかけたらしくも思はれるのです。
「継子さんが歿《なく》なつたのですか。」
殆《ほとん》ど無意識に、わたくしは其《その》娘に訊《き》きかへしますと、娘は黙つて首肯《うなず》いたやうに見えました。そのうちに、あとから来る人に押されて、わたくしは改札口を通り抜けてしまひましたが、あまり不思議なので、もう一度その娘に訊き返さうと思つて見返りましたが、どこへ行つたか其姿が見えません。わたくしと列んでゐたのですから、相前後して改札口を出た筈《はず》ですが、そこらに其姿が見えないのでございます。引返《ひっかえ》して構内を覗《のぞ》きましたが、矢はりそれらしい人は見付からないので、わたくしは夢のやうな心持がして、しきりに其処《そこ》らを見廻しましたが、あとにも先にも其娘は見えませんでした。どうしたのでせう、どこへ消えてしまつたのでせう。わたくしは立停《たちどま》つてぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]と考へてゐました。
第一に気にかゝるのは継子さんのことです。今別れて来たばかりの継子さんが死ぬな
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