座敷へ帰りましたが、あさの御飯をたべてゐる中《うち》に、たうとう本降りになつてしまひました。
「もう一日遊んで行つたら可《い》いでせう。」と、不二雄さんも切《しき》りに勧めました。
さうなると、継子さんはいよ/\帰りたくないやうな風に見えます。それを察してゐながら、意地悪く帰るといふのは余りに心無しのやうでしたけれど、その時のわたくしは何うしても約束の期限通りに帰らなければ両親に対して済まないやうに思ひましたので、雨のふる中をいよ/\帰ることにしました。継子さんも一緒に帰るといふのをわたくしは無理に断つて、自分だけが宿を出ました。
「でも、あなたを一人で帰しては済みませんわ。」と、継子さんは余ほど思案してゐるやうでしたが、結局わたくしの云ふ通りにすることになつて、ひどく気の毒さうな顔をしながら、幾たびかわたくしに云訳《いいわけ》をしてゐました。
不二雄さんも、継子さんも、わたくしと同じ馬車に乗つて停車場まで送つて来てくれました。
「では、御免ください。」
「御機嫌よろしう。わたくしも天気になり次第に帰ります。」と、継子さんはなんだか謝《あやま》るやうな口吻《くちぶり》で、わたくしの
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