んが、継子さんは雨を恐れるといふよりも、ほかに仔細《しさい》があるらしいのでございます。久振《ひさしぶ》りで不二雄さんの傍へ来て、唯《た》つた一日で帰るのはどうも名残惜《なごりおし》いやうな、物足らないやうな心持が、おそらく継子さんの胸の奥に忍んでゐるのであらうと察しられます。雨をかこつけに、もう一日か二日も逗留してゐたいといふ継子さんの心持は、わたくしにも大抵想像されないことはありません。邪推でなく、全くそれも無理のないことゝ私《わたくし》も思ひやりました。けれども、わたくしは何《ど》うしても帰らなければなりません、雨が降つても帰らなければなりません。で、その訳を云ひますと、継子さんはまだ考へてゐました。
「電報をかけても不可《いけ》ませんか。」
「ですけれども、三日の約束で出てまゐりましたのですから。」と、わたくしは飽《あく》までも帰ると云ひました。さうして、もし貴女《あなた》がお残《のこ》りになるならば、自分ひとりで帰つても可《い》いと云ひました。
「そりや不可《いけ》ませんわ。あなたが何《ど》うしてもお帰りになるならば、わたくしも無論御一緒に帰りますわ。」
 そんなことで二人は
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